大判例

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都城簡易裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人らを各罰金参千円に処する。

右罰金を完納することができないときは金弐百円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

但し、この裁判確定の日から壱年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人らの負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人らはいずれも郵政事務官であつて、被告人小中野武雄は全逓信従業員組合北諸県支部長、被告人久保田重雄は同組合都城支部長をしているものであるが、被告人両名は共謀の上、昭和二十八年四月二十四日施行された参議院議員通常選挙に際し、全逓従業員組合の推薦候補である全国区議員候補者永岡光治を当選させる目的で、同月十二日宮崎郡田野町役場から、北諸県郡山之口村青井岳、高城町を経て都城市都城駅まで、同候補者の選挙運動用トラツクに同乗し、以て同候補者の為に投票の勧誘をして政治的行為をしたものである。

(証拠の標目)(省略)

(法令の過用)

国家公務員法違反 同法第一一〇条第一項第十九号、第一〇二条第一項、人事院規則一四―七第五項第一号、第六項第八号、罰金等臨時措置法第二条

換刑処分 刑法第一八条

執行猶予 刑法第二五条

訴訟費用の負担 刑事訴訟法第一八一条第一項

(弁護人の主張について)

一、弁護人は、人事院規則一四―七は憲法の保障する国民の基本的人権を法律によらないで制限するものであるから、無効であると主張する。けれども、国家公務員法第一六条第一項には、人事院は同法の執行に関し必要な事項については、人事院規則を制定することができ、同法第一〇二条第一項によれば、職員は選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならないと規定している。すなわち、人事院規則一四―七は国家公務員法の委任により制定されたものであつて、このことは「規則の法的根拠」(昭和二四・一・一人事院規則一―〇)にも明らかにされているところである。従つて選挙権の行使を除いては政治的行為を制限することは法律の予想するところであつて、国家公務員法第一六条第二項に、人事院はいつでも、適宜に、人事院規則を改廃することができるとしていることから見ても、むしろ、法律が直接にこれを規定しなかつたのは、法規を実情に合致させ、弾力性をもたせるためであると見られる。それで右の主張は採用することができない。

二、弁護人は、被告人らは本件行為は法律上許されているものと信じていたもので、かつそのように信ずるにつき、相当の理由があつたものであるから、犯意を阻却し、被告人らは無罪であると主張する。それでまず、浅井人事院総裁の見解について検討すると、弥富賢之の尋問調書には「昭和二十八年二月ごろ、全逓その他の現業五組合が人事院総裁と交渉した際、同総裁は、選挙運動のためのトラツクが、たまたま、よつている公務員に合い、目的地まで送つた際、その公務員がトラツクで手を振つたことが勧誘運動に該当するかどうかとの問に対し、同総裁は該当しないだろうと回答したと記憶している」旨、また、「単に道案内のためならトラツクに乗ることは差支えないと回答したことはないかとの問に対して、そのような回答をしたかどうか知りませんが、総裁が、トラツクで演説してはならないということを云われたことは、はつきり記憶している」旨の供述記載があつて、これによれば、浅井人事院総裁が「よつている公務員が云々」といつたことは想像されるけれども、「トラツクで演説してはならない」というのは片言であつて、これだけでは、トラツクに乗ることは差支えないが演説してはならないともとれるし、トラツクで演説することはいけないともとれる。前の意味ならば「よつている公務員が云々」というような設例は駄足である。従て以上の証拠では同総裁がそのような言明をしたとは断定できない。宝樹文彦、栗田義三の供述調書には「昭和二十八年二月十一日の現業五組合が人事院側と交渉した際、浅井人事院総裁は、道案内のために特定の候補者の選挙用トラツクに乗ることは差支えないと言明した」との供述記載があり、また「前記交渉の結果は傘下各組合に文書で流した」との供述記載があるが、何故かその文書は証拠として提出されていない。要するに以上の証拠やその他一件記録によるも、浅井人事院総裁が、道案内のために特定候補の選挙用トラツクに乗ることは差支えないといつたとのことは、これを確認することができない。つぎに、右の点が全逓中央本部から宮崎地区委員会や支部長である被告らに、どのように伝達されたかについてみると、石井平治の尋問調書には「同人は昭和二十八年三月三十一日宮崎地区委員会において、単に道案内のため選挙運動用トラツクに乗ることは差支えないという指示をした」との供述記載があり、証人青木吉久は「証人が後で確かめたところによると、人事院総裁はトラツクに乗つて演説したり、合図したりすることは明らかにいけないが、全国区の場合は、案内をする者は組合員しかないからガイド位ならばいいだろうということであつて、宮崎地区委員会でも石井中央執行委員からそのように報告があつた」と供述し、また被告人小中野武雄の司法警察員に対する第二回供述調書には「宮崎地区委員会で、青木吉久から、われわれの部内から立候補している両氏を、組織をあげて、全力をあげて応援し当選させたい、昨年の片島氏の落選もわれわれの力がたらなかつたからだ、組織票をがつちり固め、他からくずされないように積極的にやつて行こうという趣旨のことが話された」旨の供述記載がある。これらに被告人小中野武雄(第二回第十一項)、同久保田重雄(第一回第十八項)の司法警察員に対する各供述調書を総合すると、浅井人事院総裁がどのような見解を表明したかは別として、全逓中央本部の執行委員の石井平治は宮崎地区委員会において、「同総裁が現業五組合との交渉の際、単に道案内のため選挙運動用トラツクに乗ることは差支えないと答えた」ように伝達されたことを認めることができる。けれども被告人小中野武雄の司法警察員に対する第二回供述調書には、「地区委員会から帰つた後で、心配になつたので青木吉久に電話をして問合せた」旨、「乗車中もなるだけ人に見られない様に、なるだけ奥の方に入つていた」旨、また被告人久保田重雄の司法警察員に対する第一回供述調書には「私達はトラツクに同乗することが恐ろしかつたので帰ろうということになつて引返したのであるが云々」旨の各供述記載があつて、被告人らは選挙運動用のトラツクに乗車することについては強い疑問をもつており、その疑問は宮崎地区委員会の会合の後においても必ずしも解消してはいない。それにもかかわらず、被告人らが永岡候補の選挙運動用トラツクに同乗したことは、右委員会において同乗することが決議されたため、支部長である立場から心ならずも同乗したものであることが認められる。それで被告人らは本件行為が適法であると確信していたものではないから、右の主張も採用することができない。

三、弁護人は、被告人らには期待可能性がなかつたものであるから無罪であると主張する。けれども、宝樹文彦の尋問調書には「二月十一日の交渉のてん末を組合の末端に徹底せしめたのは、四月の選挙に際し間違いが起らないようにとの配慮からなされたものかとの問に対し、そうでありますと答えた」旨の供述記載があり、石井平治の尋問調書には「宮崎地区委員会を開いたのは特定候補のための選挙対策ではなく、宮崎地区の支部長会議であつて、その際、永岡候補のトラツクが宮崎地区に来る日時を知つていたので、その日程を知らせたことはあるが、目的は国会が解散した当時の中央政界の状況、四月選挙の重要性について周知徹底させるとともに、合法的運動についての種々の問題について、中央本部の指示を伝達するにあつた」との供述記載があり、証人青木吉久は「永岡、片島両氏を国会に送るということになると、明らかに国家公務員法に違反するので、明るい政治をするために、この機会にわれわれの代表を送ろうという一般的な決議をしたのであるかつ組合員の自由意思を束縛するような、命令的なことはいつていない」と供述しており、これらによると、全逓中央本部書記長の宝樹文彦、同中央執行委員の石井平治や同宮崎地区委員長の青木吉久も、選挙法規に明るく、また、明るい政治をするためには極めて注意深い人々であるとみられるから、被告人らが違法であることを主張すれば、しいて決議されることもなかつたであろうし、その結果職をかけるようなことになつたとも思われない。それにもかかわらず被告人らはその際何ら自分の意見を主張した形跡はみとめられない。右のようなことを考えると、本件は主観的にみても、被告人らに期待可能性がなかつたとは認められないし、また客観的にみても、もしこのような場合にも期待可能性がないと解するならば、現行法規の大半は有名無実になり、それはまた、組合運動の上からみても、却つてその民主的発展を阻害することになると思われる。それで、被告人らに期待可能性がなかつたとの主張も採用することができない。

よつて主文の通り判決する。(昭和三一年一二月二六日都城簡易裁判所)

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